久々に湯河原。以前から行われていた湯かけまつりですが、何度も通っているのに初めてでした。本当は公園の改修前に行きたかったんだけれども、それが叶わないまま改修は終わり、コロナでの中止もあったりで、関わり始めてから5年以上経ってようやく参加することができました。
なかなかにゆかいな祭りで、お湯や桶が商店街の中を飛び交う様子など普段目にしたことのない光景が最高でした。近くに泊まれたら中に入りたかったくらい笑
竣工の際にも湯河原のことは書いていたものの、当時は他の仕事もあり、オープンのお知らせと少しの概要しか書けずにいたので、ここで改めて振り返ってみようと思います。
公園改修に至るまで 湯河原温泉場エリアの課題と可能性
この計画は公園を改修することから始まったわけではなく、そもそもは湯河原の温泉場エリアの活性化、それに伴う計画づくりや空き家の調査からスタートしました。その専門家チームに声をかけてもらい参加することに。
まずは2000年代初頭以降元気がなくなっている湯河原の町の現状を把握するところから。
湯河原は神奈川県の端に位置し、静岡県の熱海市と川を隔てて接しているエリア。橋を渡ればすぐ静岡県といった場所。箱根や熱海といった東京からアクセスのしやすい温泉地の間にあり、ロマンスカーや新幹線で直接アクセスできる2地域に比べると少し手間取るエリア。それ故に隠れ家的滞在ができるような温泉地であり、箱根や熱海と比べると観光客は少ない温泉地となっていました。
町を歩いていろいろと見ていくと、2015年当時でだいぶ空き家や空き店舗が散見されました。温泉地らしく、射的屋なんかがあるのもわかったけど、営業はされていない様子。それに、観光地でありながら町に人の気配があまり感じられないこと。それぞれの旅館には観光客が来ている様子だけど、宿に入ってからは外に出ることのない滞在となっていることがわかりました。(湯河原にはいくつもの温泉を抱える宿があり、チェックイン後は食事から温泉まで全て館内で済ませることができ、外に出ることなく過ごしてしまうことが多いという話。)
飲食店舗も減り、商店街は衰退。町並みは、箱根ほどは風情が感じられず、熱海のような開発に追従したこともあってか、斜面地に大きな旅館がつくられていたりとせっかくの箱根外輪山の雰囲気を削いでしまっている。
そんな湯河原を垣間見ながらもさらに調べていくと、温泉地としての歴史は古く万葉の時代からあったとか。江戸時代の温泉番付では東日本の上位に位置するほど賑わった時代があったり、明治〜大正時代の文豪たちが籠もって創作活動するような温泉地であったりと、歴史をはじめとした地域資源が多くあると思えました。湯けむりまでは感じられないけど、温泉やぐらが点在しているので温泉地風情はやはりそこかしこに。(湯河原の温泉はほとんどが40度弱程度と低めなので湯けむりが出ないとか)
万葉公園から県道を上がっていくと車がギリギリ通れる程度の細い路地があって、昭和のにぎやかな頃の名残も感じられたりなど。しかしそれら地域資源を有効には活用できてないように感じたものでした。
町歩きを元に洗い出されたのは次のような課題。入込客数の減少・少⼦⾼齢化・宿泊施設の閉鎖・商店街の衰退・地域コミュニティの機能低下・空き家の増加・伝統ある温泉街としての⾵情や景観の阻害・公共施設の⽼朽化、といったあちこちで聞くような課題から、温泉地ならではの課題まで。
一方で温泉をはじめとする地域資源はやはり活用可能なものが多くあったため、歴史的資源を活用する観光まちづくりの考え方を軸に温泉場エリア全体でのエリアリノベーション計画に自然と結びついていき、官民連携事業にも採択されました。
それら課題と可能性を地域の人と共有していく内に、温泉や歴史など地域資源をうまく活用しながら、より町に出てもらうために何をしていくか、という議論に。その結果、将来的には温泉場エリア全体の環境整備、温泉場の入り口に位置する万葉公園の環境整備を切り口に進めるのが良いかということになり、万葉公園の改修計画が始まりました。
万葉公園改修計画時の現状と課題
万葉公園の入口は、千歳川と藤木川の合流地点にあり、藤木川を渡った広場の外周に4階建ての観光会館と山肌の岩盤が接している。夏期には観光会館建物と岩盤の脇に軽食を購入できる小さな仮設店舗もありました。
道路に面する間口はあまり広くなく、さらに高さのある建物と岩盤とで奥がどうなっているかはわからない入口でした。(というか奥があることはわからず、公園には思えなかったのが正直なところ。)
奥へはどう行くかというと、3通りの動線があり、1.岩山横の階段、2.岩山にくりぬかれたトンネル、3.観光会館の脇の細い階段でした。どの入口も樹林や建物、岩盤に迫られ暗く、どこか進みづらい印象でした。
岩盤を越えるか抜けると、そこにはびっくり、思ってもいない森を感じられる空間に出ました。
入口の広場では感じられなかった緑や地形あり、千歳川の水辺を歩くこともでき、登ると神社があったりと。さらに奥へ行くと、ホタルが見られる池や大きい足湯施設・その足湯施設を管理するための建物がありました。狭い間口に対して、奥行きは長く300m程もあり、奥まで歩くのは10分ほどかかる広さでした。
足湯施設は20年ほど前につくられ、さまざまな種類の足湯があるというちょっとしたテーマパーク的なつくり。そこでも圧倒的な湯河原の森を感じながら足湯に浸かれるという万葉公園のメイン施設だったようです。
公園全体の前回の改修は30年ほど前ということで足湯をはじめほとんどの施設はだいぶ劣化していました。観光会館は観光協会の事務所や大小の会議スペースなどを有してましたが、同じ湯河原町内の別施設で機能が事足りるなど一部施設は役目を終えているということで、縮小を検討しつつ、公園全体をどう整備するといいかということを温泉場エリアの人たちと話しながら進めていきました。
改修計画
こういった経緯から建物は現状の半分の面積で、2階程度の高さに減築することになりました。減築する部分は屋外となり、イベントなど開催でき、湯かけまつりを上から眺められるテラスへ。
建物部以外の屋外に関しては、きれいな水辺や緑など湯河原の自然を感じられることがわかったので、それらをより感じられるような整備とすることに。また、どのルートを選んだらよいか分かりづらいことや、入口からでは奥にある川や森が感じられないといったことを課題と捉え、第一に動線を整理にすることから始めました。
その中には複数の動線を生かす案もありましたが、誰でもわかりやすい動線を設けることを重視することとし、最終的には1つ明確な動線を設けるということに決まりました。シンプルに公園の奥を感じさせ、奥に行きたくなる動線とすることに。
そんなわけで、公園の奥へ導きつつ住民・観光客が一同に集まれるような場にするため、幅が広い階段広場のある玄関テラスとなっています。
その後事業はPark-PFI事業となり、全体の基本計画を元に、入口テラスと熊野神社はウチを含めたチームでの設計。奥は事業者による設計となりました。万葉公園から湯河原惣湯へとリニューアルされ、入口に位置する玄関テラスは広場やテラスと合わせて、飲食施設や休憩兼コワーキング施設となりました。観光協会の事務所もだいぶオシャレになっています。公園奥は湯河原惣湯の有料施設になっており、読書と食事と温泉がテーマの違った滞在体験をつくっています。
神社に関することや公園奥の部分との共同展開のことなど整理したいことはまだありますが、ひとまずはここまで。
改修が終わってもあの改修でよかったのか?と悩むことが多いものですが、湯河原の場合は以前の観光会館の時にできなかった使い方を多くの人にしてもらえていてよいと思えているところ。さらにそれを今回参加した湯かけまつりで実感できてこれまたよかったところです。
といってもこれは第一期事業なので、むしろこれからの地域的な変化が楽しみだったりします。実際のところ温泉場に少しずつ店舗など増えているよう。
もしお近くに行かれる際は、湯河原の町歩きを楽しみながら、湯河原惣湯(湯河原万葉公園)にも滞在してみてもらえたらと。